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東京地方裁判所 昭和34年(ヨ)2164号 決定

申請人 成光電機工業株式会社

被申請人 総評全国金属労働組合東京地方本部成光電機支部

主文

一、申請人の委任する東京地方裁判所の執行吏は、被申請人の左記物件に対する占有を解いて、これを申請人に引き渡さなければならない。

(イ)  別紙物件目録(二)記載の各建物に附属する鍵一切

(ロ)  同上建物中別紙図面において朱斜線及び朱二重斜線を施した部分並びに朱字を以て(現)と表示した部分に存在する製品、仕掛品、半製品、部品及び材料一切

二、被申請人はその組合員をして、申請人の役員及び従業員が別紙目録記載の各土地及び建物(但し、別紙図面において「044」と表示した部分を除く。)に立ち入つて就業することを、出勤時に各入口において口頭で就業しないように説得する以外の方法で妨害してはならない。

三、申請人の委任する東京地方裁判所の執行吏は、別紙目録(二)記載の各建物になされた釘付けその他第一項による物件の引渡及び第二項による就業の妨げとなるべき障碍を徹去するため適当な措置をとることができる。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

(注、保証金二〇万円)

理由

第一、申請の趣旨

申請人は、

「被申請人は申請人の役員、その従業員で被申請人の組合員以外の者及び申請人と取引関係に立つ第三者(その従業員を含む。)が東京都豊島区堀之内町所在の申請人の工場に出入し、製品その他の物品を搬出することを妨害してはならない。

別紙物件目録記載の各土地及び建物(別紙図面において朱線を以て囲んだ部分)に対する被申請人の占有を解き、申請人の委任する東京地方裁判所の執行吏の保管に付する。

執行吏は前項の土地及び建物を申請人に使用させるとともに申請人の指定する者の出入りを許さなければならない。

被申請人はその組合員及び第三者を前記の土地及び建物に立入らせてはならない。

執行吏は前各項の命令の趣旨を公示するため適当な措置をとらなければならない。

申請費用は被申請人の負担とする。」

との裁判を求めた。

第二、当裁判所の事実認定及び判断

一、被申請人が争議を行うに至るまでの経過

申請人(以下「会社」という。)が撮影用電気露出計その他の製造販売業を営むものであり、被申請人(以下「組合」という。)が東京都豊島区堀之内町に存する会社の工場に勤務する会社の従業員一七九名中約一〇〇名を以て組織されている労働組合であることは当事者間に争がないところ、疏明及び当事者間に争のないところによれば、

(1)  組合は昭和三四年四月八日会社に対し一律二、〇〇〇円の賃上げその他七項目の要求を提出し、会社と団体交渉を続けて来たこと

(2)  同月二五日先に米国から帰国した会社の社長三谷隆一の帰朝報告会がこれに出席を拒否した組合の組合員以外の会社従業員並びに会社のいわゆる系列会社である株式会社早苗商会(会社の製品の関東における発売元)及び光陽電機工業株式会社(会社から経営及び資金に関して援助を受けて電池及び電気露出計を製造している。)等の従業員を集めて行われたが、組合は会社が参会者に白鉢巻、白旗を用意させて報告会に出席を拒否した組合をことさら挑発しようと企てたばかりか、あらかじめ参会者と組合員との間に紛争の生ずることを見越して警察官の出動を要請する等組合を弾圧しようとする行動に出たことがあるとして、会社に対し、文書によつて組合に遣憾の意を表し、今後かかる行為をしないことを確認すべき旨要求し、会社から組合のいうような事実は無根のものであることを極力説明したにもかかわらず、会社に誠意がないと主張して同月二八日一切の交渉を打ち切り、午後八時一〇分頃文書を以て、午後一一時五五分より争議に突入する旨を会社に通告したこと

が認められる。

二、争議の状況

疏明及び当事者間に争のないところによれば

会社が工場の敷地として使用している別紙物件目録(一)記載の土地のうち(甲)及び(乙)の各土地は会社が浦辺佐太郎から賃借中のものであり、同じく(丙)の土地と右各土地の上に存する同上目録(二)記載の建物はいずれも会社の所有にかかるものであり、右建物内には会社が所有し又は受註その他により第三者より預つて保管中にかかる製品、仕掛品、半製品、部品、材料が存在し、その状況は別紙図面に表示するとおりであつて、なお、前記建物中右図面において「044」と表示されている部分は会社がかねて組合に対し組合事務所として無償貸与していたものであるが、会社は昭和三四年七月一九日付内容証明郵便を以て右建物の使用貸借契約を解除する旨の意思表示を組合に対してしたものであるところ、

(1)  組合は前記の如く会社に通告した争議の開始時刻の到来する以前即ち当日午後九時頃工場内の宿直室に保管されていた前記各建物についての鍵を全部持ち出し、出入口の一部を釘付けにした外、当時工場内にいた非組合員が会社の業務用書類を搬出しようとするのを阻止し、更に午後一一時頃に至り工場長富家正雄その他居合わせた非組合員をすべて工場外に退出させて工場(別紙図面において朱線を以て囲んだ部分)を占拠したこと、

(2)  組合はその後会社から度々口頭又は文書により退去を要求されたにもかかわらず、これを拒否し、外部団体の支援をも受けて現在に至るまで工場の占拠を継続していること、

(3)  組合はこの間会社からしばしば文書によつて工場内にある前記物品の搬出を妨げないようにとの要求を受けたが、これを無視したばかりか、右物品その他会社の帳簿及び書類等を搬出するため一〇数回に亙つて工場に赴いた会社の役員及び非組合員たる従業員の入場をその都度阻止し、ただわずかに、同年四月二九日及び三〇日の両日工場長富家正雄その他の者が従業員に対する給与支払のために必要であると説明して小切手帳、預金通帳等を持ち出すのを許したに過ぎず、その外に同年五月一〇日会社の社長三谷隆一及び非組合員約二〇名が組合員の抵抗を排して物品税申告書類、従業員名簿及び株主名簿等を搬出するのに成功した以外には、会社において前記物品及び上述以外の帳簿及び書類を組合の占拠中にかかる工場から搬出することが一切できないでいることが認められる。

三、本案請求権の存在

叙上認定のように組合が争議中であることを理由として、上述の如き状況の下に会社の工場の敷地及び建物を占拠し、組合員及び支援団体の構成員以外の者の出入を阻止し、かつ、工場内に存する前記物品並びに会社の営業用帳簿及び書類の搬出を許さない等の方法によつて会社の業務の遂行を妨害していることは到底正当なものとは解し難く、又会社が組合のかかる行動をやむを得ないものとして忍受しなければならない事由の存することも認められない。そうだとすれば会社は前述のような組合の会社の業務遂行に対する妨害の排除を組合に対して請求し得る本案の権利を有するものというべきである。

もつとも組合が同年八月一日に至つて、同社に応接室および事務室(別紙図面において「061」および「011」と表示した部分)を会社側の使用に供するよう通告をしたことの疎明はあるが、右通告によつても組合側が右両室の占拠を廃した疎明はなく、前記認定の争議の経過等から見ると、依然会社の右両室における業務の遂行が組合側の妨害を受ける虞があるものと認められる。

四、仮処分の必要性

会社が工業標準化法に基き、その工場において製作する電気露出計JIS(日本工業規格)マークを附することをわが国においてただ独り許可されていることは当事者間に争がないところ、疎明によれば、

(1)  会社の右製品はJISマークを附したものであるため、国内はもとより海外においても大きな信用と好評を博して来たものであること、

(2)  会社は組合が争議に入つて以来工場における操業を停止せざるを得なくなつたのであるが、さりとて全面的に営業を中絶したままにして置く訳にも行かないので、系列会社である光陽電機工業株式会社の工場設備を使用させてもらつて若干の製造を続ける等の方法によりわずかながらも需要に応じる処置を講じているけれども、JISマークを附した製品を作るについて必要な会社の工場施設を使用することができないため、会社の営業は量的にも質的にも争議前とは到底比較にもならない実情にあること、

(3)  かような状況にあるため、会社は先に受注した契約の履行をすることができず、注文主から厳重な督促を受けているばかりでなく、既に契約を解除された事例もあること、

(4)  組合の占拠中の工場に放置されている製品、仕掛品、半製品、部品、材料は点数にして約七六、七八〇点価額にして約三三、八六〇、〇〇〇円に達するが、このままにして置くとちりほこりがかかり又は錆を生じたりして、精密品である関係上原状に復することは極めて困難であること、

(5)  会社は支払のため約四ケ月先の期日を満期として約束手形を振り出して来たのであるが、争議発生以後における資金繰りの不円滑なため、争議前に振り出した約束手形の支払に困窮していること、

が認められる。

叙上のような状況に鑑みるときは、本件については会社のため主文第一項から第三項までに掲げるような仮処分をする必要性があるものと解すべきである。

五、結論

よつて本件仮処分申請を前示の限度において認容すべきものとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚正夫 石田穰一 半谷恭一)

(別紙省略)

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